もしあの日、晴れていたら。

57年前の今日は雨だったらしい。
彼はその日、あの陸橋に行っただろうか。


晴れた空と、豆腐売りのラッパと
やわらかい風と、中央線の轟音。
目を閉じると、あの時代と何も変わってはいない。
通り過ぎる親子連れにも
電車に乗った疲れた初老の男性にも
みんな私とは違う、それぞれの暮らしがある。
道を歩いていて訳も無く泣きそうになるのは
彼らが生きて、暮らしていることが
自分には重すぎて、背負いきれないと思うからだ。
ある随筆で語っていたことをふと思い出した。
約束、という言葉を題に含んだその随筆は
きっと彼がこの場所で想っていたことだ。


帰り際、深呼吸をして仰ぐと
空が泣きそうに笑っていた。
もし、こんな空を見ていたら
彼は思い止まっただろうか。
ほんの少しでも、今を忘れて
たった一瞬でも、真っ白になって。


もしあの日、晴れていたら。